発表及び質疑応答の公開は終了しました。
★応答掲載期間:2021年3月2日(火)0:00~10日(水)23:59
※この間に発表者からの応答を掲載します。
研 究 発 表
フレデリック・ダグラスのThe Heroic Slaveにおける英雄像
発表者 柳楽 有里(岐阜市立女子短期大学)
【概要】
フレデリック・ダグラスのThe Heroic Slave(1853)は、1841年クレオール号で起きた黒人奴隷の反乱をもとに描かれたダグラスの唯一の短編小説である。主人公として描かれるのはこの反乱の首謀者マディソン・ワシントンだが、本作品はワシントンの独白に直面し反奴隷主義者となる白人登場人物の視点を通して描かれている。奴隷制に無関心であった白人読者の感情を揺さぶり反奴隷制へと奮い立たせることを意図してのことであったといえるだろう。本発表で注目したいのは、当時既に作家としてまた演説家としてかなりの名声を得ていたダグラスがあえてマディソンを題材とした小説を執筆するに至った動機である。ダグラスは国内外の各地で行われた演説においてワシントンについて度々言及しており、ロンドンでの講演ではワシントンを高貴な人物として紹介している。ダグラスのワシントンに対する思い入れは相当であったことがうかがえる。しかし実際のところ、ダグラス自身もワシントンと同時期に英雄的地位を築き上げていった人物である。1838年に北部へ逃亡し自由な身分を得たダグラスは1845年に自伝を出版しており、その後も奴隷制廃止と黒人差別撤廃のために幅広く活躍を続けた。彼こそが奴隷解放の英雄といえるだろう。そのような彼がどうしてこれほどまでにマディソンに思いを傾けたのだろうか。本発表では、ワシントンとダグラスを比較することにより、自伝を通して語り得なかったダグラスにとっての真の英雄像が小説の主人公マディソンに映し出されている点を指摘したい。