新刊紹介:別府惠子 著『「聖母子像」の変容--アメリカ文学にみる「母子像」と「家族のかたち」』(大阪教育図書)
「近代小説の巨匠」ヘンリー・ジェイムズは絵画芸術を小説芸術の「姉妹芸術(シスター・アート)」と称した。ジェイムズ初期の短編「未来のマドンナ」(1875)は、未来の「聖母子像」を志すアメリカ人画家の挫折の物語。古代人が崇拝した命の根源、輝く天地のイメージ「地母神像」に端を発する「聖母子像」は、歴史をとおして人々の心理の深層に潜在し様々に変容し、表現されてきた。その代表格がイタリア・ルネサンス期を飾る「聖母子像」の数々。
本書は、ホーソーン、メルヴィル、オルコット、ストウ、フォークナー、ジョン・ガードナー、J.C.オーツ、アン・タイラー、トウェイン、モリスンらの小説芸術に、変幻する「母子像」がどの様に描かれているかを考察するアメリカ文芸論の試み。
もくじ
まえがき
序章──「未来のマドンナ」、いま
1. ヘンリー・ジェイムズの「未来のマドンナ」(1875)
2.メアリー・カサットのモダニスト・マドンナ(1895)
3.ヴァージニア・ウルフ『灯台へ』(1927)──リリー・ブリスコーの「ポストモダン」マドンナ
第1章──「マグニフィカート」──現代女性詩人の「マリアの歌」
1.アドリエンヌ・リッチ『女から生まれる』(1976)
2.マリアの歌──「マグニフィカート」と『マリアが語り遺したこと』(2015)
3.アン・セクストンとシルヴィア・プラス──それぞれの「マリアの歌」
第2章──見えないヨセフ(父)と家族のかたち(1)
1.聖家族における父ヨセフ
2.ナサニエル・ホーソーン『緋文字』(1850)──ある家族の物語
3.ハリエット・ビーチャー・ストウ『牧師の求婚』(1859)とルイザ・メイ・オールコット『若草物語』(1868)──アメリカにおける「家族のかたち」
4.ハーマン・メルヴィル『ピエール──曖昧さ』(1852)──疑似家族と「愛の道化」
第3章──見えないヨセフ(父)と家族のかたち(2)
1.ウィリアム・フォークナー『八月の光』(1932)──リーナとバイロン・バンチ
2.ジョン・ガードナー『ニッケル・マウンテン』(1973)──代理父ソームズ
3.ジョイス・キャロル・オーツ『悦楽の園』(1967)、『マリアの人生』(1987)──母性神話の脱構築と母系社会回帰
4.アン・タイラー『ホームシック亭での晩餐』(1982)、『セント・メイビイ』(19991)──食卓のある風景
第4章──「黒い聖母」──ロクサーナの娘たち
1.「黒い聖母」
2.マーク・トウェイン『うすのろウィルソン』(1894)──ロクサーナの選択
3.トニ・モリスン『ビラヴド』(1987)──母娘の物語(セス、ビラヴド、デンヴァー)
終章──親と子、家族のかたち、いま──
1.親になること──レイチェル・ボウルビー『わたし自身の子ども──親の物語』(2013)
2.「モダン・ガール」メイジーの「知ったこと」
3.アン・タイラー『クロック・ダンス』(2018)──女たちのコミュニティ
あとがき(初出一覧)
参考文献
図版出典リスト
索引(人名、作品名、事項)