日本アメリカ文学会関西支部1月例会のご案内

2021年度日本アメリカ文学会関西支部1月例会を下記のとおりオンラインで開催いたします。今回の企画は、恒例の若手シンポジウムとなっております。多くの会員の皆様のご参加をお待ちしております。

日時:2022年1月8日(土)午後3時より

Zoomによる開催(参加リンク等は後日メールでお知らせします)

若手シンポジウム「20 世紀アメリカ文学のローカル・カラー」

司会・講師 柳楽有里(兵庫県立大学)

「ドロシー・ウェストのThe Weddingにおける壁を乗り越える愛」

講師 長尾麻由季(愛知大学)

「「騎士の島」の意匠―トニ・モリスンのTar Babyにおける転置と遅延」

講師 黒木優介(関西学院大学・院)

「ニューオーリンズと火事 ― A Streetcar Named Desireにおける火のイメージ」

講師 土岐光一(京都府立大学・院)

「「南」のトポス ––– Breakfast at Tiffany’sにおける空間の浸透」

* 非会員で参加を希望される方は、関西支部事務局までお問い合わせください。参加の可否は支部執行部にて判断させていただきます。

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シンポジウム各発表要旨

「騎士の島」の意匠――トニ・モリスンのTar Babyにおける転置と遅延

愛知大学 長尾麻由季

要旨

トニ・モリスンの『タール・ベイビー』(Tar Baby, 1981)は、カリブ海に位置する架空の孤島「騎士の島」を舞台とするという点で、合衆国内を舞台とすることが多いモリスンの他の作品とは大きく異なる。「騎士の島」では、熱帯地方特有の気候や、熱帯雨林に生息する動植物が繰り返し描写されることで、その地域性が強調される。ヴァレリアン・ストリートは、冬を過ごす別荘として、「騎士の島」に「十字架館」と呼ばれる屋敷を建て、妻のマーガレットや、使用人シドニーとその妻オンディーンと暮らしている。「騎士の島」での暮らしは一時的なもののはずだったが、すでに何年も延長されており、マーガレットたちはフィラデルフィアに帰ることができないまま「十字架館」に留まっている。本作品では、本来属する場所から移動させられる人物や植物が描かれる。本発表では、転置と遅延を本作品のモチーフとして考察することを通して、『タール・ベイビー』の舞台設定に込められた意匠を明らかにすることを試みる。

 

ドロシー・ウェストのThe Weddingにおける壁を乗り越える愛

兵庫県立大学 柳楽有里

要旨

ドロシー・ウェストの長編小説『結婚式』(The Wedding, 1995)の舞台となっている架空の街オーバルは、黒人富裕層たちが避暑地として訪れる島の一角であり、マーサズ・ヴィニヤード島のオーク・ブラッフスをモデルとしている。本小説は、そのタイトルが示すように、一見富裕な黒人の一族であるコールズ家の娘シェルビーの結婚を中心として展開されていくかに見える。しかし、シェルビーがその血を受け継いでいる二つの家系の男女たちの歴史が連綿と語られた末に、作品の最後の数章に至って物語は急展開する。『結婚式』は、結局のところシェルビーの結婚式が行われるのか否かといったことを宙づりにしたまま、幼い少女の死によって終わっていく。本発表では、主要登場人物であるコールズ家、特にグラムとシェルビーに注目し、白人と黒人という異なる二つ世界の並置と混淆という観点から結末部分の意義を考えてみたい。

ニューオーリンズと火事――A Streetcar Named Desireにおける火のイメージ

関西学院大学(院)黒木優介

要旨

ルイジアナ州南部にある都市ニューオーリンズはTennessee Williamsにとって様々な点において重要な意味を持つ土地である。ここは1938年12月、当時27歳のThomas Lanier Williamsが初めて訪れ、Tennessee Williamsとして作家として自らを呼称しはじめた土地であり、彼が初めて男性との情事を体験した土地、そして彼の代表作の一つであるA Streetcar Named Desire (1947)の舞台となっている土地である。Streetcar冒頭において、舞台は白人女性と黒人女性が親しげに会話を交わす場面から始まる。その様が語るように、Streetcarにおいてニューオーリンズは、とりわけ人種や文化の混合が見られる土地として描かれている。本発表においてはまず、そのような文化の混合をニューオーリンズにおける火事の歴史との関係において考察する。次にその考察の結果をもとにして、Streetcarと同じくニューオーリンズが舞台となっている一幕劇 “Auto-Da-Fé” (1946)を参考にしつつ、作中に描かれる火のイメージの観点からA Streetcar Named Desireの読み直しを試みる。

「南」のトポス――Breakfast at Tiffany’sにおける空間の浸透

京都府立大学(院)土岐光一

要旨

Truman Capoteは南部作家と呼ばれることに繰り返し抵抗を示してきた。初期の長編とは異なりもはや南部が舞台となることもないBreakfast at Tiffany’s (1958)は、Capoteが特定のローカル・カラーに規定されることのない小説家へと変化する契機であったと見なされる傾向にある。しかしながら本作のヒロインHolly Golightlyがテキサス出身であり、そこから逃れるようにしてメキシコやブラジルへと向かおうとすることを踏まえれば、本作において「南」という方向性が決定的に重要な意味を持つことは明らかである。本発表では、この小説を「南部外に転移された南部小説」であると主張する先行研究に批判的な検討を加え、その上で本作の空間表象を改めて分析することで、この小説がどのようなトロープに彩られているのかを考えてみたい。