アメリカ独立宣言書に、生命、自由とともに、不可侵の権利として記された「幸福の追求」は、建国以来、現代にいたるまでアメリカという国家とそこに生きる人々を突き動かす精神的原動力となってきた。「幸福の追求」を独立宣言書に刻んだこの国の文学は、「アメリカン・ドリーム」と密接に関連し、その拠り所ともなる「幸福の追求」をどのように描き、読者あるいは観客の「幸福の追求とその行方」にどのような影響を与えてきたのか。この問いに答える真摯な努力の成果が、小説と演劇、二つのジャンルから18篇の論考を収めた本書である。

Contents
序  アメリカ、幸福の追求とその行方(貴志雅之)

I 記憶・夢・愛
第一章 「世界で一番美しい島」
オニールとメルヴィルにおける母胎回帰の夢(西谷拓哉)
第二章  贈与としての幸福の夢
『二十日鼠と人間』におけるイノセンスの意義(西山けい子)
第三章  幸福の瞬間
ユードラ・ウェルティ『デルタの結婚式』とヴァージニア・ウルフ 『灯台へ』 を読む(中良子)
第四章  トルーマン・カポーティの記憶の中の幸福
『草の竪琴』の儚い温もり(新田玲子)
第五章  ブローティガンの戯れと幸福感(竹本憲昭)
第六章  サム・シェパードの戯曲にみる女性の連帯と幸福への脱出(古木圭子)

II 他者・狂気・暴力
第七章  世紀転換期ハワイにおける日本人移民の幸福と演劇的想像力(常山菜穂子)
第八章  「普通」への反逆
一九四〇年代のコメディー分析(黒田絵美子)
第九章  明白なる薄命
ウラジーミル・ナボコフの『プニン』におけるハッピーエンドの追求
(後藤篤)
第十章  タブーを犯した成功者
『山羊 – シルヴィアってだれ?』における幸福の追求と破壊(貴志雅之)
第十一章 幸福と寛容の表象
ジョン・パトリック・シャンリィの『ダウト – 疑いをめぐる寓話』
(原恵理子)

III 言語・歴史・イズム
第十二章 ナンシー・ランドルフの幸福の追求
歴史/小説にみるジェファソン周辺の「幸福の館」(白川恵子)
第十三章 エマソンにおける〈幸福〉の二つの意味
ハンナ・アーレントからエマソンを見る(堀内正規)
第十四章 アメリカン・ドリームの申し子
フレム・スノープスと五〇年代のフォークナー(山本裕子)
第十五章 幸福のレトリック
ハミルトン/『ハミルトン』が描いたアメリカ(森瑞樹)

IV メディア・科学・テクノロジー
第十六章 文化装置による意識の変容
ジェイムズの『使者たち』における幸福の行方(中村善雄)
第十七章 リアリティTV時代の幸福
クロス・メディア的視点による考察(岡本太助)
第十八章 「幸福」のこちら側
リチャード・パワーズの『幸福の遺伝子(ジェネロシティ)』に見る横溢と復元力(渡邉克昭)

あとがき
事項索引
人名索引
執筆者紹介

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